佐伯啓思

戦後の日本は、一方で、アメリカ化していって、少なくとも表面上はすべてアメリカ的なものを受け入れてきたわけです。しかし、他方で、本当の意味で首から下まで全部アメリカ化したかといったら、それは決してそんなことはない。それほど簡単に国の習慣とおいものが変更されるわけがないのです。だけれども、1990年代以降、アメリカ的な自由と民主主義、市場経済、科学主義、個人主義、成果主義、能力主義といったものをほとんど無条件で礼讃するという方向に一気に流れてしまいました。これ自体が、私には日本はまだアメリカの占領政策を脱却できていないということに思えるのです。戦後の日本の進む方向が間違ってしまったことを、まずは見極めることが重要なのです。そのうえで、何がわれわれの中に残っているのか、何を日本的価値として再現すべきか、というところに戻ってきているようです。